対談

大人はもっと対話をする機会を作らないといけない──豪田トモさん

d大人はもっと対話をする機会を作らないといけない──豪田トモさん

2022.7.15

「子どもの対話」を映画のテーマにしたのは自分の子育てのミスから

編集長: 映画監督になったきっかけを教えてください。

豪田: 表現が難しいですが、端的に言うと親とわだかまりがあったからです。小さい頃から、親から愛されているとか、見守られているという感覚がほとんどありませんでした。弟が今でいうところの「発達障害」のような感じでとても手がかかり、親は弟にかかりきりだったからです。そういう環境だったので、映画は、いわば、幸せではない現実から逃れられる世界でした。そうして映画にのめりこんでいき、映画監督になりたいという気持ちが芽生えるようになりました。

編集長: 家族を中心とした映画が多いですが、『こどもかいぎ』はどういう経緯でできたのですか?

豪田: 娘が5歳で、僕が怪我をして腕にギプスをしていた時のことです。夕食後、僕がトイレに行って戻ってきたら、娘がいませんでした。その頃の娘は、食事中にうろつくなどの行動が多くなっていたので、親として躾をしなきゃ、と思い、娘を少しキツめに叱ったんです。でも、何かいつもと違う空気を感じたので、なんとかして理由を聞き出すと、「パパのズボンを畳んであげてたの!」と泣き出したんですね。どういうことかというと、食事中に僕が「ギプスをしているから服を畳めない」と話しているのを聞いていて、パパがトイレに立った隙に代わりにやってあげようということだったんです。その場ではとにかく謝って許してもらいましたが、そこから、親にはよく理解できない娘の不可思議な言動も、何か理由があるのかもしれないと思うようになりました。娘だけではなく、色いろな子に色いろな理由があって、それをうまく大人がキャッチできないことによって子育てが大変になっている側面があるんじゃないかなと。

豪田トモさん

編集長: それで対話というテーマの映画なったのですね。

豪田: 初めから決まっていたわけではなくて、作っていくうちに形作られた感じですけれど、この映画を作ってから、家でも対話はすごく大事にするようになりましたね。
撮影時、とてもシャイな女の子がいました。あまりに何も話さないので、無理に参加しなくても大丈夫だと保育士さんから話してもらったんですが、その子は出たいと言うんですね。その後もしばらくは話しませんでしたが、ある時からすごい勢いで話すようになりました。
少し時間はかかったけれど、『こどもかいぎ』の場が、話を聞いてもらえる、話をしてもいい、安心できる場所になったんだと思います。すぐに返事がなくても、じっくりと場を作って、気持ちや思考を言葉にするという訓練を何回もすることによってだんだん話せるようになることもあるのかもしれないと学びました。子どもは大人が思っている以上に話したいことがたくさんあって、機会を与えられればちゃんと発言できるんです。そこを引き出すのが大人の役割かもしれません。

小さい頃からの対話の習慣が社会を変える!?

豪田: 子ども達の様子を見ていて、「こどもかいぎ」に強烈な可能性を感じました。子ども達の頭の中で何が起きているかというと、先生から話す内容を振られたら、まず、その意味を理解しようとします。それから自分なりに考え、言葉を選択して、発言する。聞く力、思考力、表現力、それから想像力、創造力、共感力など、たくさんの芽を伸ばせるんです。自分と違う意見もあることで多様性も学べるし、考えを受け止めてもらうことで自己肯定感も育まれる。
小中高でもこれが行われたら、今の子ども達や社会が抱えている問題の多くが改善するのではないかなと思いました。もし週に1回「かいぎ」をすると、18歳になるまでに300回ほどの場数を踏むことになります。これだけの対話を積み重ねた経験を持つ子ども達が大人になったらどうでしょう。問題解決にあたって、暴言や暴力を選択する大人も多いですが、彼らはまず「対話」を選択をする「癖」がつくようになるのではないでしょうか。様ざまな能力が培われる中で、イノベーションや社会を変える力、未来を自分達で作るという感覚も身につくでしょう。こういうことが、今の社会が抱える問題解決に効いてくると思うんですね。
だからこそ、今回映画を観てもらうだけではなく、政治家や官僚、保育・教育の場にも働きかけて、こういう習慣を作っていただく活動もしています。これを読んでくださった保育園でも、ぜひ子どもの話を聴くという機会を設けてもらえたら嬉しいです。

編集長: 海外では対話やディスカッションの時間があるそうですが、そういうイメージでしょうか?

豪田: スウェーデンの学校ではライフスキルという授業があります。まさに「こどもかいぎ」みたいで、輪になって人生のことを語り合うクラス。カナダの保育園では「サークル・タイム」を日常的にやっています。
日本人はコミュニケーションが苦手と言われますが、これは実は「国民性」ではなく、単に、小さい頃から学んでいない、経験していないというのが原因なのかもしれない、と思うようになりました。

編集長: 小さい頃からコミュニケーションを学んでいたら、ずいぶん違ってくるでしょうね。

豪田: 僕らはもっと対話をしないといけないと思います。まずは大人同士が「おとなかいぎ」をして、その中でコミュニケーションの仕方を学んでいく。そういったことも大事なのかなという気がします。

保育士さん達の凄さが染み渡りました

豪田トモさん

編集長: 保育を間近で見てみていかがでしたか?

豪田: 保育士さんの言動もとても勉強になりました。たとえば食事中に子どもがこぼしてしまった時、すぐに保育士さんが後始末するのではなく、子どもにどうしたらいいかを聞く。そして答えを引き出して、一緒に対処をするんです。たったこれだけのことですが、とても子どもを尊重していて、子どもの自発性を伸ばす保育を当たり前のようにされているんだなと。子どもを預けているだけでは全く気づかなかったけれど、中で撮影させていただいて、保育士さん達の凄さが染み渡りました。多くの人に気づいてもらいたいと思って、その辺りも映画ではたくさん取り上げています。
保育士さんにはぜひ自信を持ってもらいたいし、賃金面も含めて、社会的な立場をもっともっと向上してもらいたいです。
とは言え、映画に出てくる保育園は、決してモデルケースとしては描いていません。もっと良い対応があるんじゃないかと思える部分もあるでしょうし、一方でこんな良い取り組みや声掛けをしているんだと気づく部分もあるかもしれません。保育士さん同士で観に行ったら、帰りのカフェでトークが止まらないんじゃないかと思います。

編集長: 保育士ならではの見方ができそうですね。最後に、今後の展望を教えてください。

豪田: 次は愛着障害をテーマにした映画で、ほぼ完成しています。あとは、いじめをテーマにした脚本も書いています。特に親子の愛着、親子関係というのは僕のライフワークみたいなところがあるので、じっくり取り組んでいきたいテーマですね。

豪田トモ(ごうだ とも)

小林よしひさ

経歴

1973年東京都出身。中央大学法学部卒。6年間のサラリーマン生活の後、映画監督になるという夢を叶えるべく、29歳でカナダへ渡り、4年間、映画製作の修行をする。在カナダ時に制作した短編映画は、数々の映画祭にて入選。
「命と家族」をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』(2010 年/ナレーション:つるの剛士)、『ずっと、いっしょ』(2014年/樹木希林)、『ママをやめてもいいですか!?』(2020年/大泉洋)は、累計100万人を動員。2019年小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。
2022年7月、新作映画『こどもかいぎ』(ナレーション:糸井重里)を劇場公開予定。

こどもかいぎ ’22.7.22[FRI]公開

こどもかいぎ 7.22[FRI]公開

おとなのみなさん、 ちゃんと話し合っていますか?

企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:糸井重里

後援:内閣府
推薦:厚生労働省

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