対談

絵日記をまとめた本は家族のタイムカプセルなんです──ミュージシャン/かりゆし58 前川真悟さんファミリー

絵日記をまとめた本は家族のタイムカプセルなんです──ミュージシャン/かりゆし58 前川真悟さんファミリー

2020.4.15

目の前にある大切なものを、自分を通して“助産”する

編集長: 小さい頃から音楽をやりたかったのですか?

真悟: 中学ぐらいからギターを触っていて、高校では学園祭などでバンドをやっていました。高校を卒業してからはみんなバラバラだったんですが、23歳ぐらいの時に同級生が集まって飲む機会がありました。その頃って、社会人になってからのスタートダッシュが息切れしてきて、いわば人生の5月病みたいな時期だったんですね。そこで高校の時のバンド楽しかったなという話から、あと1回人生のピークがあると信じてまたバンドをやろうという話になりました。自分のパートナーや家族に誇ってもらえるような人間になろうという目標があって、その方法が音楽だったんです。

編集長: 少し変わったきっかけなんですね。真悟さんの曲は心に響く曲が多くて、ああいう歌詞はどのように出てくるのでしょう?

真悟: かりゆし58の代表曲と言ってもらえる「アンマー」という曲があります。色んな方にあの曲はいいねと言ってもらえたんですが、当時僕はものすごく恥ずかしくて謙遜していました。ところがある時、沖縄の芸歴50年の三線弾きの先生に言われたんです。音楽っていうのは、まだ形を成していないだけでもともとそこにあるもの。それをあるべき姿で蘇生させるのが音楽家の役割であって、お前は作ったんじゃない、助産したんだよと。確かに、あやが子どもを産んで、誰かが「かわいいですね」と言った時に、助産師が「いや、こんな子かわいくないですよ」と言ったら、産んだあやは怒りますよね(笑)。その話を聞いてから自分の中で折り合いがつくようになりました。
つまりはそういう感覚でできているんです。自分の近くにあるものや沖縄の景色を、自分をフィルターにして日記のように書きます。それで出てくる言葉は、自分で書いたと思うと独りよがりかなと不安になる時もあるけれど、出てくるべき言葉だったと信じようと、信じられるぐらい真摯に謙虚に音楽と向き合ったんだということだけを見つめるようにしています。

自由度は奪いたくない。けれど、言葉は大事に扱ってほしい

前川真悟さん、亜矢さん、幸之真さん

編集長: あやさんがインスタグラムで描いていた絵日記が本になったんですね。このお話を聞かせてください。

あや: 子どもって変なこと、面白いことを日常的にするんですが、その場で写真を撮ることができない瞬間が多いんですよね。でも覚えておきたいからとりあえず絵日記として残すことにしたんです。

真悟: 僕は家にいないことが多くて、TV電話で会話した後、切ると寂しさや罪悪感に襲われるんです。この罪悪感というのは息子に対してもあるけれど、あやに対してなんですね。息子はエネルギーがあるし、実家は遠くて頼れる状況にないし、俺は何もできてないし、大変じゃないかなっていう。でも、あやが絵日記を始めてしばらくすると、ライブで行った先々で「奥さんのインスタいいね!」と言われるようになり、そんな時にふと思い出して僕も見てみたら、あやが愛情深く、しかも朗らかに子育てしている姿が垣間見られて、少しほっとして嬉しくなりましたね。

編集長: こういう記録はいいですね。形に残るのが素晴らしいと思います。

真悟: 合間に僕のエッセイが入ってるんです。僕は成長するにつれて、父親との男同士の会話がどんどん減っていきました。だからこの本は、10年後ぐらいの息子、思春期や反抗期を迎えてどういう風に僕の話と向き合ってくれるかわからなくなった時期の息子に宛てた手紙だと考えているんです。

編集長: 愛情がこもっていますね。お子さんの話が出ましたけれど、子育て論はお持ちですか?

真悟: たいそうなことは言えませんが、なるべく自由度は奪わないようにというのはあります。ただ、息子は活発な方だし負けん気も強くて、「大嫌い!」「もう一緒に住みたくない!」などの強い言葉を言うことがあります。そういう時、あなたが言っている言葉には実際にそうなるという力が宿っているんだよと話をします。言葉が現実的に繋がっていくということは知っていてほしい。言葉を軽々しく出す人にはなってほしくないなと思っています。

編集長: 言葉の重みを知ってほしいと。作詞家らしいですね。あやさんはどうですか?

あや: 将来何をやりたいか自分で選べるように、色いろなことを経験させたいなと思っています。勉強だけではなくて、遊び、旅行、交流などたくさん経験して、自分で選択肢をいっぱい持てるようになるといいなと。

真悟: あやに任せている部分が多いので、僕が伝えられることといったら、大人になればなるほどもっと楽しいことがあるよということを自分の人生で示すぐらいかなと思うんです。6歳の彼より38歳の俺の方がもっと自由だし、もっと楽しい。大人になるのが楽しみだと思ってもらえるような父親でありたいと思っています。

保育園には小さな地球があったから、息子を居させたいと思った

前川真悟さん、幸之真さん

編集長: お子さんの保育園はどういう基準で選びましたか?

真悟: 保育園は家から近いという理由で選んだのですが、その保育園には色いろな国の人がいたんです。アジア出身の先生、子ども、アメリカとダブルの子もいて、保育園に小さな地球がありました。沖縄で育った人は、沖縄で子育てしたいという人がけっこう多くて、僕も迷ったんですが、この環境から彼を連れ出すのはもったいないと思ったんです。たとえばある国への敵対意識が高まったとしても、自分の人生の最初の友達がその国の人だったら見え方が変わってくるでしょう?

編集長: そうですね。

真悟: たまたまそういう土地柄だったんですけど、結果的に良かったと思っています。

編集長: グローバルな保育園が増えてきたと感じますね。最後に、保育士や保育士を目指す方へのメッセージをお願いします。

真悟: 子どもは昔から宝物だし未来そのものですが、より大事にされていく時代になってきたと思います。だからこそ、自分が扱っているものに責任というよりは誇りを持っていただきたいなと思います。子どもも僕らもこんなに尊敬しているんですから。

あや: 働いていく中で、マニュアルや保育者からの様ざまな意見など色いろあると思いますが、それに縛られすぎず、自分が保育士さんになりたいと思った気持ちをずっと大事にしてもらえたらなと思います。

真悟: 本当に。一番近くにいる大人だから、大人は楽しそうっていう姿を一番示せる。保育士さんてそういう立場なので、どうか喜びを忘れずにいてほしいと思います。

前川真悟さんファミリー

テツandトモ

前川真悟(まえかわ しんご)

1981年生まれ。
2005年沖縄で結成したバンド「かりゆし58」のボーカル。沖縄音階にロック、レゲエをチャンプルーしたサウンドと、かざらない言葉でメッセージを発信し、世代を超え人気をよんでいる。
2006年2月ミニアルバム『恋人よ』でデビュー。2016年2月22日にデビュー10周年を迎え、さらに精力的な活動を続けており、沖縄で生まれ育った彼らならではの『島唄』を全国に向け唄い続けている。

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かりゆし58の最新アルバム『バンドワゴン』|育児絵日記の書籍『しんくんとかちゃんたまにとちゃん』

前川亜矢(まえかわ あや)

Instagramで投稿中の育児絵日記が書籍化。

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前川幸之真(まえかわ ゆきのしん)

2013年4月8日生まれの元気いっぱいの男の子。