対談

教えるのではなく子どもの探究心を支えてやってほしい──畑 正憲さん

教えるのではなく子どもの探究心を支えてやってほしい──畑 正憲さん

2019.1.15

自ら欲し、触って、研究する

編集長: ムツゴロウさんと言ったら動物好きという印象なのですが、いつ頃から動物と触れ合っていたのですか?

畑: 僕はね、動物は好きどころか好き以上です。いつ頃から触れ合っていたかというと、もう小さい頃から。動物はね、周り中にいっぱいいましたから。僕は父が医者でね、満州に行くのについて行って、興安嶺の終わりの隅っこに住んでいたました。そこは原野で、まったく何にもないところなんです。そういうところにいましたから、周りが動物だらけで。空気銃でパン、とスズメの群れに打ち込むと、ポン、と落ちてくる。それを丸焼きにして食べていました。美味いですよ、小鳥は。

編集長: 自然と動物に囲まれて過ごしていたんですね。大学院を辞めた後、放浪生活ののちに科学映画製作をされていたんですね。

畑: 大学院にいたけど、やっぱり大学院の人間じゃないなと思い始めて辞めたの。映画製作は面白かったですね。映画を作るというのは、自分の才能のあらゆる分野を活かせるんですね。僕は小さな細工も大きな細工も好きだったし、動物やら虫やらの小さい細胞をいじるのなんか得意中の得意だった。映画ではね、とにかく色んなことをやらないといけないんですよ。たとえばカエルの卵を撮るにしても、いつ産卵させて卵を取るか、どうしたら精子がかかって発生が進むか、自分で研究、しかも短期間でしなければいけない。それで僕はずいぶん勉強しました。

畑 正憲さん

編集長: 自分で研究して製作されていたのですね。今、幼児教育でも、先生が教えたりみんなが同じことをする教育ではなく、子どもが自由に動いて考えて発見するというような教育がなされるようになってきています。

畑: 僕はね、「先生」にならないでほしいと思う。ものを教える人にならないでほしいなあと思います。子どもが自ら知りたいと欲し、発見できるようにしてほしい。子どもの探究心を支えてやってほしいです。
たとえば、オタマジャクシをどう教えるのか。その時、知識から教えないでほしいと思いますね。ただ本で調べ「卵が何日ぐらいしたら孵って、このくらいに育ったらカエルになる」なんて、教育でもなんでもないですよ。実際にオタマジャクシをつかんでみなさい。強くつかむと死ぬでしょ、それで生と死がわかるんです。実際に体を爪で割ってみなさい。体の仕組みが、体の中がどんなに複雑なのかがわかる。
馬はお腹が膨れて起こる腹痛、疝痛(せんつう)で死んでしまうことが多いんだけれど、僕は一頭も疝痛で死なせたことはないの。触るって、色いろなことがわかるんですよ。今の医者はなんでもかんでも検査するけど、手で触った方が早い。僕なんかは触り慣れてるから、全部透けて見えるようにわかります。今の人は勉強しなさすぎです。実際に自分で触っていじって研究するって、とても大事です。

苦しみは自分で発見して、自分で乗り越える

編集長: 都会だと自然と触れ合う機会が少なくなってきていますが。

畑: 第一、触れ合わせないでしょ、「危ない」「それはダメ」ばかりで。海の中に入って行ったらどうなるかとか、全然教えないんだもの。僕はね、子どもを育てる時に、わざと苦しいことにぶつからせようと思った。小舟を持っていたから娘を乗せて海に出て。そうすると、外海だから小舟は揺れて揺れて、すぐ酔っ払っちゃう。僕は酔っ払え酔っ払えと思うわけです(笑)。日も暮れると、どこにいるのかわからなくなるでしょ。娘にわざと「俺、どこに向かえばいいのかわからないよ」って言うんです。娘は「船長がわからないのに、船員の私がわかるわけないじゃん」て反論してね、じゃあ二人で考えようってなる。それで、エンジンを止めて、波の音を聞いて、ダダダダーという、他の波と違う波の音を見つけるわけです。その音は岩にぶつかる音で、岩があるということはそこに島がある、自分の家があるということがわかるわけですよ。

編集長: あえていばらの道を?

畑: いばらの道じゃないよ。人間としてなら当然のことです。たとえば朝起きて、腹が減っていて、じゃあどうする? それを自分で発見して工夫していくのが人間なんです。
「野菜を食べない子がいるんです、どうしたらいいでしょう?」「野菜を、料理を変えましょう、肉の味をつけましょう」そうやって子どもに食べさせるけど、そんなことでは子どもにちゃんと伝わるわけがないんです。そうやって食べさせていても、生の野菜を与えたら食べないでしょ。山に連れて行って、その辺の草を食べさせてごらんなさい。苦くて食えたもんじゃない。そして畑に連れて行って野菜を食べさせたら、食べますよ。おいしいんです、畑の野菜は。人間が栽培したものと野外のものとははっきりとした違いがあるんですよ。教育っていうのはそういうものなんです。そこをね、はき違えている人が多い。食べられないならこう工夫したらいい、こうしたらいい、とマニュアルを作って食べさせるなんてダメですよ、そんなもの教育でもなんでもないんですよ。
苦しいことがあったり、痛いことがあったらそれを自分で耐えなきゃだめなんです。そうするとね、後に、素晴らしいことが待っているんですよ。

本当に好きなことを探して、才能を大事にしよう

畑 正憲さん

編集長: ムツゴロウさんは、どんな動物にも「よーしよーし」って撫でて仲良くなってしまいますよね。育児でも、ベビーマッサージなど触れ合うことでコミュニケーションをとるといった手法がでてきているのですが、何かあるのでしょうか?

畑: オキシトシンというホルモンが出るんですよ。でも、そのホルモンがオキシトシンだとわかったのはつい最近のことです。オキシトシンっていうのは子宮を収縮させる作用があるので、もともとは陣痛微弱を助けるために産科と獣医で使ってたの。それがスウェーデンで研究されて、色いろなことがわかった。戦後、スウェーデンで校内暴力がでてきたのだけど、ある脳科学者が、触れ合いを多くすればホルモンが出て暴力が止まると主張した。それで朝は必ず挨拶し、できれば握手して抱き合って、ということを励行したら暴力が減って模範校になったということがあったんです。僕の「よーしよーし」っていうのも、それがオキシトシンだとわかっていたわけではないけれど、触れることで何かホルモンが出て信頼関係ができるっていうのはわかっていたから、ずっとやっていたんです。

編集長: 「よーしよーし」をしなくても、ムツゴロウさんはものすごく動物に好かれていると思うのですが、実は僕も好かれるんです。野良猫とか、膝に乗ってきたりするんですよ。

畑: それは特別な才能です。大切にしてください。僕はね、そういう人を作りたいと思ってね、真似するように言ったけど、ちゃんとできた人はいなかった。今まで色いろな動物と触れ合ってきたけど、普通の感性ではできないよ。僕だからできたんだ、これは奇跡なんだ、と思っています。
僕はとにかく動物と一緒になりたかったからこうなったの。子どもには本当に自分がしたいことを探しなさいと言いたい。好きなことってね、胸が熱くなるんです。胸が熱くなるというのは、すべての始まりですよ。

畑 正憲(はた・まさのり) 愛称:ムツゴロウ

畑 正憲(はた・まさのり) 愛称:ムツゴロウ

経歴

1935年福岡県生まれ。東大理学部動物学科大学院を経て、学研映像部門に入社。教育映画やCMで活躍した後、文筆家に。1971年、北海道厚岸郡の無人島に移住。翌年、『動物王国』を建国する。数々のノンフィクションやルポルタージュを執筆。1981年からテレビ番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』がスタート。動物関連他、趣味に関わってのテレビ出演も多数。『子猫物語』などの映画監督も勤める。現在も精力的に活躍中。