対談

完璧じゃなくてもいい、失敗したっていい、自分と誰かを比べないで、自分だからこそできることを探して磨いていったらいい!──鈴木翼さん

完璧じゃなくてもいい、失敗したっていい、自分と誰かを比べないで、自分だからこそできることを探して磨いていったらいい! ──鈴木翼さん

2017.10.16

手遊び嫌いの保育士から、遊び歌の文化をつなげる作家へ

編集長: 保育士からあそび歌作家になったきっかけを教えてください。

鈴木: 中川ひろたかさん、ケロポンズさん、新沢としひこさん、たにぞうさんといった方々にお会いして遊び歌というものを知ったんですよ。それまでは手遊びとかが苦手で、保育士になった時は手遊びを1つしか知らなかったんです。でも、講習会で「自分が楽しいことは楽しんでいいんだ」ということに気付いて、実際に子ども達の前で自分が楽しかった気持ちでやったら、以前は子ども達の気持ちがバラバラだったりやらされている感があったのに、すごく盛り上がるようになって、自分がロックスターにでもなったような気持ちになりました。それからいろいろな講師の先生の追っかけをし、自分でも歌を作るようになりました。

編集長: :保育士になったのはいつ頃ですか?

鈴木: 2000年です。保育士になって2年目ぐらいに遊び歌の楽しさを知り、子どもの歌を募集していた雑誌に応募して、佳作をいただいて。そのあと中川ひろたかさんのラジオ番組で詞に曲をつけていただいた。僕は何をやっても普通の人で、クラスでも目立つ方ではなかったので、初めて評価され、認められた気がして、歌を作るのがすごく楽しくなったんです。

編集長: それで保育園に8年間勤務後、あそび歌作家に。小さい頃から音楽に親しんでいたのですか?

鈴木: 全然! 保育士の頃、後輩が楽しそうにギターを弾いていたので、教えてもらいました。

編集長: 保育士になってからですか! すごいですね。遊び歌を作るときのコツってあるのですか?

鈴木: :今は娘の動きからヒントを得ています。あとは、いつも頭の中に子ども達がいて、その子達が楽しいと思うことを探しています。意識しているのは「僕も子どももやっていて楽しい」ラインを探すこと。例えば、「せとぎわ」という演歌風の手遊びでは、瀬戸際で両手がくっつかないように止めなきゃいけないけれど止められないというところが子どもは楽しいんですね。一方大人は演歌風の歌部分に笑うんです。

編集長: 師匠である中川さんや先輩方のどの部分をリスペクトしていますか?

鈴木: 生き方というか、信念がブレないんですよね。人生を面白がっていて、すごく楽しそうで、子どもの心があるんですね。
僕が憧れているのは、ケロポンズさんではパネルシアター。パネルがものすごく動いて、今まで触れてきたものと全然違う! 中川さんは特に絵本と曲。心に残るメロディで、気づいたら口ずさんじゃう。新沢さんは詞が飛び抜けて素晴らしくて、たにぞうさんはダントツで遊び! 僕は全部影響を受けています。ああいう風になりたいってパネル作って、絵本を書いて曲を作って、詞を書いて、遊びを作って。もう遊び歌オタクです。
それから、つながりあそび・うた研究所の町田浩志さんを尊敬しています。町田さんから優しさと、先生達へのまなざし、思いやりを学びました。完璧じゃなくていいよ、ゆっくりでいいよっていつも言ってくださって。
僕があそび歌作家を始めた時って、若手があんまりいなかったんです。だから、先輩方が作った文化を絶やしたくなくて、皆さんの素晴らしいところを集めて自分らしく作りかえていきたいなと思います。僕、先輩方の遊びや作品が本当に好きなんです。

大事なのは、認めること。そして、自分にしかできないことを見つけること

編集長: 講習会で先生方に伝えたいことは何ですか?

鈴木: まずは「自分が楽しむ」ということ。それから、先生達がいつも頑張っていることを認めたい。頑張ったことや想いは子どもに絶対残っていると思うんです。それを歌を通して伝えたい。この2本柱でいつもやっています。

鈴木翼さん

編集長: 保護者の方と接するときに心がけていることはありますか? 保護者対応で悩んでいる保育士さんが多いので。

鈴木: 共感することでしょうか。いつもやっていたのが「いいとこみっけ」です。初めて後輩ができた時、上手く指導できなくて園長先生に相談したら、まずは1個いいところを見つけなさい、それを認めてからよく話を聞いていくと、きっとそれはあなたが悩んでいることと同じよと言われたんです。本当にその通りでした。誰が相手でも同じ。いいところを見つけて、認めて、それをきちんと言葉で伝える。それが一番上手くいくんです。「認める」ってすごく大事だなって思います。

編集長: 近年男性保育士が増えていますが、鈴木さんはどんな保育士でしたか?

鈴木: 当時はイベントみたいなものをしょっちゅうプレゼンしていました。ハロウィンで1日1個どこかにお化けが増えていくとか。ここにいたかぼちゃが次の日は蜘蛛に食べられて、さらに次の日は巨大かぼちゃが蜘蛛を食べようとしているとか、ちょっと物語風になっているの。そのうちみんなで盛り上がって、最後は園長先生が魔女になりきって、園長室が魔女の部屋みたいになっていました。

編集長: 面白いですね。先生がこういう風に発想力・創造力豊かな遊びをいろいろやっているのを見ると、子どもにそういう力が育まれるのではありませんか?

鈴木: そうですね。そうだといいですが。失敗も多かったし、一緒に働いていた先生方は大変だったとも思います(笑)。
他には、2か月間ぐらい忍者で過ごすというのをやりました。当時の園では五領域(※)でカリキュラムを書かなくてはいけなくて「忍者ごっこによって健康はこのように育まれる」とか強引にこじつけていましたね(笑)。

※五領域 保育所や幼稚園での教育目標である健康・人間関係・環境・言葉・表現の5つの領域を指す。

編集長: 楽しそう!

鈴木: すごく楽しかったです。たしか、犬飼聖二さんのごっこ遊びの本に書いてあって、ごっこ遊びって楽しそう! と思ってやったんですよね。自分が好きなことをやればいいと思います。フェスが好きだったらフェスごっこ。リストバンド作って配ったり、好きな曲流してエアギターしたり、子ども(観客)が舞台に上がって一緒に踊ったりね。泥団子が好きだったら泥団子をひたすら作れるようにカリキュラムを工夫するとか。楽しむって難しいけれど「自分が楽しい」と「子どもが楽しい」をうまく合わせられるといいですよね。

編集長: そうですね。「男性」保育士だからという気負いみたいなものはなかったんですか?

鈴木: 保育士になった時は、男にしかできないことをやろう、女性に負けるものかと思っていたんです。でも僕はひょろいので、男性の仕事と言われる力仕事で特に役立つわけでもなく、どんどん苦しくなってきちゃって。それで、普通の一人の人間として自分にしかできないことを見つければいいんだと思うようになりました。
男だからとか女だからとかではなく、一人ひとりが自分にしかできないことを持っていると思うんです。子どもを引きつけるのが上手な先生もいれば、少人数の子を丁寧に見る先生もいる。引きつける先生が全体を引っ張って、引っ張りきれない部分をそういう先生が見るとか、そういう風に協力し合う共同体になるといいと思いませんか?

編集長: 思います。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

鈴木: 保育士時代の同期がとても優秀で、自分と比べては、いつも落ち込んでいたんです。でも、遊び歌に出会い、僕にしかできないことを見つけて、「ゆっくり ゆっくり」という詞を書いたんです。完璧じゃなくてもいい、失敗したっていい、自分と誰かを比べなくていい。僕にしかできないことがあって、僕だからこそできることがあって、それぞれの時間で一歩ずつやっていけばいいんだって。そう考えたらすごく楽になったんです。自分らしく、自分だからこそできることを探してそれを磨いていくのが良いと思います。それが保育を楽しんだり、ワクワクしたりするきっかけになっていくんじゃないかと思います。

鈴木 翼(すずき・つばさ)

鈴木 翼

経歴

私立保育園、子育て支援センターに8年間勤務後、2009年あそび歌作家へ。保育者や幼稚園教諭向けの講習会のほか、保育雑誌への執筆、親子コンサートや保育園や幼稚園、子育て支援センターなどであそび歌ライブを行なっている。
NHK BSプレミアム「みんなDEどーもくん」、BSフジ「モジーズ&YOU」などに出演。 主な著作物に「うたのつばさ」(チャイルド本社)、「鈴木翼のちょこっとあそび大集合!」(ひかりのくに)、パネルシアター「おばけマンション」(アイ企画)など、その他、絵本やCD等多数。