対談

持って生まれた個性が認められ、表現し、何かをやってみたいと思う気持ちが育まれる場所をつくる──安永愛香さん

持って生まれた個性が認められ、何かをやってみたいと思う気持ちが育まれる場所をつくる──安永愛香さん

2015.12.01

支援が必要な子たちには保育所より深刻な「待機児童」問題が

安永愛香さん

編集長: どろんこ会について教えてください。

安永: 社会福祉法人どろんこ会は、全国に94の保育所・保育関連施設(2016年4月開設予定含む)を展開する、「子育て支援」事業を展開しています。認可・認証保育所はもちろん、学童保育や事業所・院内保育など保育に関わるさまざまな領域に携わってきました。
その中で私達が伝えたかったのは、人が人生を生きていく上で自ら何かを“したい”と思う気持ちを持ち、自分らしく生き生きと暮らしていく素晴らしさを知ってもらうことではないか、と考えています。

編集長: さまざまな「子育て支援」事業を展開されているのですね。
「つむぎ」は発達に気がかりがある子ども達のための支援施設ということですが、こういった施設を作ろうと考えたのはなぜですか?

安永: 子どもは大人が思う以上に、経験からさまざまなことを認識し、自分で考える力を持っていることに日々驚かされます。
その子が持って生まれたそんな個性が認められ、表現し、何かをやってみたいと思う気持ちが育まれる場所が、もっと必要なのではないか。特に心身の発達に気がかりなところがある子ども達には、そうした機会がなかなか与えられない現状に、危機感を持ったのです。

実情を見るとそれ以前に、既存の発達支援センターを訪れても、センター側が受け入れできず、「半年後に来てください」と言われることが当たり前。早くに療育すれば発達を促すことができるはずなのに、じつは保育所よりも深刻な「待機児童」の問題が起こっていたのです。
行政の支援が遅れているのなら、民間でやるしかない。そこで2013年にどろんこ会として初の療育施設「発達支援つむぎ 荻窪ルーム」を開設。現在では東京・神奈川に6ルームを展開し、2016年4月にさらに埼玉県ふじみ野市に新たなルームの開設を予定しています。

つむぎカフェ

編集長: 一般の保育所よりも深刻なのですね。こういった施設が増えるのは社会にとっても親御さんにとっても良いと思います。
「つむぎ」の名前の由来を教えていただけますか?

安永: 子どもの未来を紡ぐ、夢を紡ぐ、地域と子どもや家庭を紡ぐ。
「つむぎ」という言葉には、一人の子どもがより豊かに生きていくための支援を通じて、寄り添える何かと、あるいは目指したい何かとを“紡ぐ場でありたい”という願いが込められています。

「発達支援 つむぎ」を訪れるのは1歳~5歳の乳児や幼児。人生の出発点に立ったばかりの子ども達に、つむぎのスタッフたちは何をしてあげられるのか。すべきなのか。
臨床心理士や作業療法士など専門的療育に携わるプロが集まっていても、その知識やテクニックばかりでなく、子ども達と向き合うその姿勢においてプロであるべきと思うのです。一人の子どもの人生で最も重要な時期に関わる責任。子どもの未来や夢を“紡ぐ”役割を担う私達が果たさなければならない使命でもあります。

子どもの成長に妥協なく取り組み、成長を喜ぶ

編集長: 「発達支援 つむぎ」ではどんな人材が求められるのでしょうか。通常の保育士さんよりも、もっと高度であったり、専門的な知識を求められたりするのですか?

上:つむぎカフェ 子育てに悩む保護者同士の交流の場にもなっているカフェスペース / 下:グループ指導室 気が散りやすい子どもも集中できるように飾り付けはほとんどしない
上:つむぎカフェ 子育てに悩む保護者同士の交流の場にもなっているカフェスペース / 下:グループ指導室 気が散りやすい子どもも集中できるように飾り付けはほとんどしない

安永: ここまで聞いて「とても大変そうな仕事」と思うかもしれませんが、そんなことはないと思います。
たしかに楽な仕事ではないですよ。ただ、それだけ世の中から必要とされている役割でもあり、「保育の仕事をしていて、より支援を必要とする子の助けになりたいと思うようになった」という保育士からの採用応募が増えてきています。うれしいですね。

保育士から転職してきたスタッフがまず驚くのは、子どもとの向き合い方でしょうか。
つむぎではグループ指導も行っていますが、子どもの状態に合わせた個別指導に特に力を入れています。1対1で自分のすべてを捧げてその子の成長に貢献するのです。
何ヶ月も何ヶ月も指導を続け、発音できなかった言葉がしゃべれるようになったときなどは、もちろん私にも報告が送られてきて、たくさんの人と喜びを分かち合います。それを素直に喜ぶことができ、そのために妥協なく取り組める人こそ、私達が求める人材です。

それでも私自身は、保育と療育に違いがあるとは思いません。
どろんこ会の保育園で行っている、田んぼに入ってどろだらけになる体験や、ヤギや鶏の世話を通じて生き物の命を知る経験は、発達支援の領域でも当たり前に行える世の中になればと思っています。
それを「危ない」と言う人もいるでしょう。保育園以上にそのリスクを避けようとする傾向があるのも事実です。だから運営の現場でも安全と体験の狭間で「どこまでやってよいか」で何日も何日も議論を交わすことだってあります。答えなんかありません。納得できるまで妥協なく取り組むことが大事なんです。

編集長: 垣根なく遊ぶ子ども達の姿を私も見てみたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

安永愛香

安永愛香

経歴

東京理科大学工学部卒業。二児の母。保育サービスの質や保育業界の抱える問題に危機感を抱き、自分自身の手で保育園を作ろうと1998年に「メリー★ポピンズ」を、2007年には初の認可保育園として「朝霞どろんこ保育園」を開園。

「発達支援 つむぎ」のホームページはこちら