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保育士のメンタルケア講座vol.10 ストレスに強くなるためのセルフケア『考え方をちょっと変えてタフになる』──精神科医・執筆家 奥田弘美先生

保育士のメンタルケア講座vol.10 ストレスに強くなるためのセルフケア『考え方をちょっと変えてタフになる』

2016.01.15

ポジティブ思考を意図的に作る

編集長: 今回は『考え方をちょっと変えてタフになる』というテーマで奥田先生にお話をうかがいたいと思います。

仕事やプライベートで嫌なことがあり、考え方をポジティブに変えようと思っても、悪いイメージが浮かんで落ち込んでしまう……保育士さんにもそんな状況があると思います。
どうやって考え方をポジティブに変えるのか教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。

奥田: 私も若い時はマイナス思考でした。「ポジティブ思考で人生がうまくいく」と、色いろな本で読んだり、体験談を耳にされたことがあると思いますが、ちょっとしたコツなんですよね。
先天的にポジティブ思考ができる人は、ご両親から伝授されていたり、幼い頃から大人になるまでの間に学んだりしたのだと思います。
逆に、学ぶ機会がなかった人や、周りにいた人が心配性でマイナス思考の人が多かったりすると、ポジティブ思考を意図的に作っていくしかないんですよ。

編集長: では、具体的にポジティブ思考に変えていく方法を教えてください。

奥田: まずは入門編でポジティブ思考の入り口になる代表的な例をお伝えします。
マイナス思考になりがちな人にとって、いくつかのパターンがあるんです。

マイナス思考のパターンその1 「全か無か思考」

奥田: 何か失敗したり、やろうとした事がダメになったり上手くいかない時に、「全か無か思考」をしやすい人は、「完全に失敗してしまった」「これで全くダメになった」と決めつけてしまいます。もしかしたら失敗した中には、学びになった部分があるかもしれないし、10%くらいは成功した部分があるかもしれないのに、100%成功でなければ全て失敗とオール オア ナッシングで決めつけてしまうのです。

そのような考え方をしていることに気づいた時には、「今回は総合的には失敗だったけれども、10%でも自分のプラスになったことはないだろうか」「本当に100%ダメなのか? 一部分は良いところもあったのでは?」と自分に問いかけてみましょう。

どんなことでも体験すると、必ず学びや気づきはあります。完全主義になりすぎず、まずは小さなことでも良いことを見つけてそこにフォーカスする癖をつけていきましょう。

マイナス思考のパターンその2 「一般化」

奥田: 何か嫌なことがあったり、思い通り行かなかったりすると、「いつも」私はこうだ、「これからも」きっとうまくいくはずがないと、未来まで決めつけてしまう。
たまたま今回はダメなだけなのに、すべて自分はダメだという様に1つが全部に通じるような「一般化」してしまうわけです。
「いつも」私は失敗するのよね。「いつも」失恋するのよね。など、「いつも」や、運が悪いから「これからも」ずっと続くという発想になったら、そこで気づいてほしいですね。
人間というのは、将来はわからないし、全く同じというシチュエーションは起こりませんよね。
関わる人も違えば自分も変わるし、2~3回嫌なことが続いたとしても、「いつも」と決めつけてしまったら、怖いことに潜在意識で「いつも」そのようにしてしまったりするのです。

「いつも……」と嘆く癖に気づいたら、「今回はたまたまうまくいかなかっただけ」とか、「人生同じことは起こらない」「未来のことは気にしないでおこう」と自分に言いきかせてほしいです。
これがポジティブな人の失敗のとらえ方です。

マイナス思考のパターンその3 「被害妄想型思考」

奥田: あとは、「被害妄想型思考」というのもあります。
何か非難をされたり、誰かがあなたのことをちょっと悪く言っていたと聞かされてしまうと、マイナス思考の方は、「誰もが」が私を非難している、「みんな」に嫌われていると拡大解釈をしてしまいます。これを「被害妄想型思考」といいます。
たまたまある人が、自分のことをちょっと能力がないと非難したり、ちょっと悪口を言ったかもしれないけれど、「みんな」全てということはありえないですよね。

そんな時は、「被害妄想型思考」に入っているなと気づいていただいて、「みんな」全てということは絶対にありえないよと自分に言ってあげてほしいですね。
そのグループで失敗して非難されるようなことが万が一あったとしても、一歩外に出たら、自分のことなど名前すら知らない人がたくさんいますよね。
もしもそのグループの人間関係がどうしようもなくなったら自分が関わる集団を変えればいいだけなのです。

応用編 「振り子」

振り子のイメージ

奥田: マイナス思考のパターンに気づくようになると、さらに応用編ができるようになります。
私自身よくやっている思考方法です。イメージの転換法です。

嫌なことはどんな人の人生でもあることです。
人生は振り子のようなもの。不運と、幸運の間をゆっくり振れているイメージです。嫌なことがあったら、これは幸せのほうに振れていくために、振り子が嫌な方に振れたんだと思ってほしいです。
今度はすごくいいことがあるんだというふうに思っていただきたい。そうすると自棄にならず希望が見えてきたりするんですよね。
いいことがあってもちょっとクレームがつく時には、皆さん不安になると思いますが、それはちょっと揺り返しが来て少し嫌なことが起こっただけだと思うと良いでしょう。
逆に好調な時は、図に乗って油断するのを防ぐことができます。

応用編 「幸運の芽」

幸運の芽のイメージ

奥田: 一生懸命努力をしているのに、なかなか結果が出ない時ってありますよね。
一生懸命働きかけているのに周りが動いてくれない、一生懸命資格の勉強をしているけれどもテストに通らない、という時には、諦めてしまいがちです。
そういう時は「幸運の芽」というイメージを持ってほしいですね。

種を植えて発芽するのを思い描いてください。秋口に植えた種だと冬が過ぎて春になるまでなかなか芽が出てこないですよね。
うまくいかない時というのは、まだ芽が土の中に埋もれていて、一生懸命発芽の準備をして、春が来るのを待っているんだと想像して、雪解けになったら芽が出て花が咲くというイメージを持っていただくと良いです。
今の状況は辛いけれども、もう少し踏ん張ってみようと勇気が湧きやすくなります。

応用編 「幸運のストーリー」

奥田: あとは、幸運のストーリーを自分で作る方法もあります。ハッピーエンドの自分のストーリーを作ってしまうのです。

編集長: 自分の物語を描くのですか?

奥田: そうです。ハッピーエンドのドラマだと、失恋したけれどもまたいい人と出会ってハッピーな結婚をするというようなストーリーがありますよね。例えば自分が大きな失恋をした時に、それを作ってしまうんですよ。

自分で、「私は彼氏と別れ、辛い体験をしたが、そこから立ち直るためにファッションやメイク、英会話などを学び自分磨きをして、色いろな気づきを得て外見も内面も美しくなった。その後、習い事がきっかけで理想の男性に出会い、結婚し今は幸せである。」と自分の成功ストーリーを作ります。
それを繰り返し頭の中でイメージすることで、気持ちが元気になり行動意欲が湧いて実際により良い人生が拓きやすくなります。
5年後のハッピーな自分から、「今は辛いかもしれないけど5年後にはとても幸せになっているからね。大丈夫だよ。安心して頑張って。」という感じで手紙にハッピーなストーリーを書いて今の自分にメッセージを送ってあげてもいいですね。

こんなふうに未来に自分が成功したハッピーエンドストーリーを書いて、毎日イメージしたり読んだりします。すると人間は刷り込み効果があるので、毎日読んでいると心がプラスに変化し、成功の方向に行きや すくなるのです。

こうした入門編のマイナス思考の変換パターンや応用編のイメージは、今までの連載でお伝えしたように「睡眠をしっかりとる」「バランスの良い食事を摂る」などをきちんと行うと、心や体調が安定して実践しやすくなります。
今回ご紹介したような方法は、自己啓発系の本や心理・哲学の本などにも書いてあるので、気にいった本を探していただくと良いでしょう。
プラス思考に転換していく方法をいくつか持っていると、嫌なことがあった時やストレスにあった時も、早く立ち直ったり、バネにしてより良いことを引き寄せたりしやすくなると思います。

園長先生が、マイナス思考の保育士さんにできる援助は?

編集長: 園長先生がマイナス思考の保育士さんに、どのように考え方を変える援助をしてあげたら良いでしょうか?

奥田: そうですね。今日お話ししたことを、その人に合うように変形してお話してあげたり、例を出してあげるといいですね。
失敗してすごく落ち込んでいる保育士さんがいたとしたら、「結果は失敗だったけれどもそこから何か学べたことはないかな。」と一緒に探したり、「残念ながらクレームは来ちゃったけれども、良かったよと言ってくれた人も確実にいたよね。」など、「全か無か思考」「一般化」をしているところを和らげてあげたり、アドバイスをしたりすると良いですね。
さらに「振り子」の例を出してもいいし、「嫌なことがあった後は必ずいいことがあるという前触れと言われ ているよ。」という話をしても良いと思います。
園長先生は、多くの経験もお持ちだと思うので、体験と絡ませて、アドバイスするといいと思いますね。

編集長: なるほど、たしかに体験と絡ませたアドバイスだとさらにわかりやすいですね。

奥田: ポジティブ思考のパターンをいくつも持っている人ほど強いんですよ。

編集長: 奥田先生、貴重なお話をありがとうございました。今回で学んだ方法をぜひ園でも実践していただければと思います。
次回は、ストレスに強くなるためのセルフケアの第10弾『心の充電法』についてお話しいただきます。

奥田 弘美

奥田弘美先生

経歴

精神科医・産業医として老若男女のストレスケアやメンタルケアに関わりながら、本の執筆や講演にて心身の元気アップ法を精力的に伝えている。雑誌、新聞などの監修・連載経験も多数。
近著は「部下をうつにしない上司の教科書」(東京堂出版)、「ココロの毒がスーッと消える本」(講談社)、「自分の体をお世話しよう ~子供と育てるセルフケアの心~」(ぎょうせい)。
私生活では13歳と9歳の男児のママであり、保育園に子育てを支えてもらったことに深く感謝している。

『一流の人はなぜ眠りが深いのか?~3つの習慣で脳の緊張がスッキリとれる~』奥田弘美著