保育における音の教育の今
――近年、保育現場では歌や発表会など「決まった音を再現する」活動が中心になりがちです。音や音楽を通した教育には、どんな課題や変化があるのでしょうか?
岡田: 歌や発表会自体は決して悪いことではなく、みんなで同じ曲を歌ったり演奏したりする活動は子ども達にとって大切な経験です。特に子どもが好きな曲を提示すると、喜んで取り組む姿も見られます。
ただ、出来栄えを重視するあまり、完成形を求めるような技能中心に偏ってしまうことがあります。その結果、子どもがどう感じ、どう表現したいかといった自発性よりも、「間違えずに演奏する」「上手に歌う」といったことが目的化してしまいます。また、完成形を意識しすぎることで表現が限られ、ワンパターン化し、毎年同じような活動しかできないという課題もあります。
一方で、音遊びやリトミックのように、感じたことを音や体で表現する活動も広がっています。しかし、こうした子どもの感覚的な表現を、次のステップに繋げる手立てにはまだ課題があると感じます。
"音譜中心"から"感じる音"へ
――楽譜を読む、正しく演奏する従来の教育に対して、自由に音を感じ取り表現することにはどんな意味があるのでしょうか?
岡田: 幼稚園では、子ども達は保育者の歌や演奏を真似る形で学ぶことが多く、楽譜を読むのはまだ難しいのが現実です。楽譜にはリズムや音の高さ、音楽の構造を理解し、他者と共有できる利点があります。しかし、正しく演奏することばかりが目的になりすぎると、技能面ばかりが評価され、音楽を楽しむ気持ちが薄れることもあります。
その点、楽譜のない即興的な活動では、演奏技術にとらわれず、子ども自身の自由な表現が尊重されます。正解がないからこそ、個々の良さを生かし、自分なりに表現する力を育むことができます。今の子ども主体の保育を見ると、これからはみんなで同じ演奏をするよりも、個々の表現を大切にする方が時代に合っていると感じます。
音が生み出す"繋がり"と"共感"
――子ども達が音を通して他者と関わることには、どんな教育的価値があるのでしょうか?
岡田: 音を通したやり取りは非言語的コミュニケーションの1つです。 例えば、相手の太鼓のリズムに合わせたり、声の強弱で返したり、音を聞いて身体で表現したりすることで、共感的な関わりが育まれます。 相手の音を受け止め、自分の音で返す経験は、他者への思いやりや協調性の芽になります。
こうした音や音楽を介したコミュニケーションを続けることで、情動的な繋がりが生まれ、他者理解や多様な価値観の受容に繋がります。 また、非認知能力の育成にも効果があると考えられます。
"音レク"がもたらす新しい学びの形
――鈴木楽器の楽譜を使わずに音を聴き合いながら生まれる「音レク」のような活動は、子どもの成長にどんな良い影響を与えるのでしょうか?また、「偶然できる音楽」や「みんなで音を共有する」体験はどのように評価されますか?
岡田: 音レクは楽譜を使わず、音でのコミュニケーションを基本とした活動です。 まず、間違いのない環境で安心して音を出すことができます。 さらに、他者の音と合わせてその場で1つの音楽を作る経験は、創造性や協調性、共同性の素地を育みます。
楽譜に縛られない音楽遊びでは、「どんな音がするだろう」「この音とここの音を重ねたらどうなるだろう」といった自然な試行錯誤が生まれます。 そこには間違いがなく、音の偶然性を楽しむ余白があります。 他者と共に音楽を作る過程で、子ども達は柔軟な発想を広げ、音楽を楽しむ喜びや価値を感じることができます。 つまり、音レクは新たな表現の可能性を広げ、協同的な学びを促す活動なのです。
トーンチャイムなど “誰でも音を奏でられる楽器”の 教育的可能性
――誰でも扱いやすいトーンチャイムのような楽器を使うことは、子どもの表現や自信、感情の発達にどんな影響をもたらすでしょうか?
岡田: 多くの楽器は演奏技術や奏法が求められるため、できないと挫折してしまうこともあります。 しかし、トーンチャイムは誰でもすぐに綺麗な音を出せるため、演奏による成功体験が得やすく、子どもの自信や意欲を引き出せます。
また、幼稚園児であれば1人1本の音を担当することが多く、個々の役割意識や協調性、責任感も自然に育まれます。
音だけで表現する活動は、言葉に頼らず感情や思いを伝える力を養うことにも繋がります。 小さな頃からこうした経験を積むことは、将来的な表現力の向上にも大きな可能性があります。
未来の保育と"音"の関係性に向けて
――これからの保育や幼児教育で、音や音楽はどんな役割を果たすべきでしょうか? また、鈴木楽器の音レクのような取り組みはどのように広がると良いでしょうか?
岡田: 子ども達が自由に音を出し、探求し、重ねたり動きをつけたりする「音で遊ぶ」体験は学びの原動力です。 子ども達の心を動かし、新たなアイデアや表現力を広げる源になります。
音レクは誰もが簡単に参加できる活動で、音や音楽の可能性を広げます。 先生も子どもと一緒に楽しむことで、意外な姿や発見に出会うことができ、楽譜や技能に縛られない音の楽しみを体験することは、子ども達の創造性や学びの意欲をさらに高めると考えられます。
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